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 生協組合員活動としての
松葉ダイオキシン調査
グリーンコープ生協
おおいたの取組み


池田こみち

環境総合研究所副所長
松葉ダイオキシン調査実行委員会委員長

2009年6月16日
 無断転載禁


 松葉ダイオキシン調査が始まって今年で10年目を迎える。1年目からこの調査に参加し続け10年目を迎えた【グリーンコープ生協おおいた】、その歩みを振り返ってみよう。

 大分と言えば、どんこ椎茸、かぼす、関あじ・関さば、豊後牛などとともに、別府、湯布院などの温泉、臼杵の石仏・耶馬溪の紅葉など自然と資源に恵まれた観光地である。そんな大分の地でもグリーンコープ生協連合会の一員として1999年から松葉によるダイオキシン調査に取り組んできた。

 初年度は多くの組合員の関心を高めるため、県北の日田市、中津市から県央の別府市、大分市、そして県南の津久見市と5地域でスタートした各市の平均濃度の把握調査を6年間継続した。そして、後半は、大分県内で最大の一般廃棄物焼却炉である大分市の東・西ふたつの清掃工場周辺をターゲットに継続調査を行ってきた。




 <10年間の対象地域一覧>

 市民参加による松葉ダイオキシン調査で測定しているのは、ダイオキシン類のうちPCDDとPCDFの2種類でありCo-PCBは測定していない。大分県内のPCDD/PCDFの毒性等量濃度の地域別の推移を以下に示す。


 <図1:地域別濃度変化1999年度〜2008年度>

 図より、一般環境大気濃度(広域平均)を調査した1999年から2004年までの前半6年間を見ると、中津市・別府市・大分市の3市については、排ガス中のダイオキシン規制強化が始まった2002年以前である2000年度の濃度が最も高く、その後は濃度が低下し、概ね0.4pg-TEQ/g程度に落ち着いてきていることがわかる。また、地域別に見ると、一般環境大気については、北部の日田市、南部の臼杵市などは低く、都市部で工場地帯もあり、大規模な焼却炉もある別府市や大分市が高めとなっていることもわかった。

 2003年度からは発生源周辺調査として、大分市内の大規模焼却炉からの影響の把握を目的として、焼却炉から半径1km以内のアカマツを採取し、6年間の継続的な監視を行ってきた。対象とした焼却炉は大分市の東部清掃センター(福宗清掃工場)と西部清掃センター(佐野清掃センター)である。


 <図2:福宗清掃工場>


 <図3:佐野清掃センターの概要>


 <図4:佐野清掃センターの外観>

 これらの清掃工場はいずれも内陸の山間地に立地しており、住宅地が隣接しているわけではないが、佐野清掃センターのすぐ隣には公園が整備されており、子供たちの遊び場として市民が利用している。しかし、現地に行ってみると、公園一帯には、あきらかに嫌悪感を覚える臭いが漂っていた。

 この二つの清掃工場周辺のダイオキシン類濃度は、2008年度には両者がほぼ同じレベル(0.48〜0.49pg-TEQ/g)となっているが、6年間を通してみると、やや福宗の方が濃度が高い傾向を示している。年度別に見ると、佐野は2006年度まで順調に低下していたものが、2007年度に大幅に上昇に転じているのが見て取れる。一方、福宗は、毎年濃度が大きく変化しているが、佐野清掃センターと同様に、2006年度から2007年度にかけて濃度が上昇した。

 その背景に、大分市では、廃棄物の分別方法を見直し、2007年度から「プラ」マークの容器包装類を分別し、その他の廃プラスチックの焼却処理が本格化したことが見逃せない。

 リサイクル率を上げる上で有効と思われた8分別から12分別への変更であったはずだが、その一方で、焼却炉では水分の多い生ごみの割合が高くなりすぎて、今度は「汚れたプラごみを助燃剤として燃えるごみへ」とまた方針転換するなど、清掃工場の現場でも混乱が見られた。すなわち、焼却炉における廃プラ等の混入率が分別方法の変更前と後では大きく変化していることに注目する必要がある。


 <図5:焼却施設別 廃プラ等混入率の推移>

 2008年度の調査結果について、調査を行ったPCDDとPCDFの同族体パターンと異性体分布について、3地域(佐野清掃センター周辺、福宗清掃工場周辺、佐伯エコセンター番匠周辺)を比較してみる。ちなみに、佐伯市の海沿いに立地しているエコセンター番匠は、佐野と同様にガス化溶融炉であるが、大分市の清掃工場が山間地に立地しているのに対して、佐伯市のエコセンター番匠は海沿いであり、拡散条件は圧倒的に大分に比べて有利、つまり大気中に拡散して薄まりやすい条件であると思われる。


 <図6:佐伯エコセンター番匠の概要>


 <図7:3地域同族体パターン比較:2008年度>


 <図8:3地域のPCDD、PCDFの異性体分布比較:2008年度>

 PCDDとPCDFの同族体パターンからは、3地域とも類似したPCDFが右肩下がりの焼却由来のパターンとなっていることがわかった。また、異性体分布では、PCDDについては、高塩素化化合物が多く検出されているのに対し、PCDFについては、低塩素化化合物も多種の異性体が多数検出されており、共通性が見られた。

 佐野と福宗について、2003年度から2008年度までの変化を見ると、図に示すように、特に2006年度から2008年度にかけて変化が見られる。2006年度には不検出であったものが2007年度に多数検出されるなど、焼却条件が変化した様子が窺えた。2007年度に濃度が上昇した背景には、廃プラ焼却に転じた新たな分別方法が大きな要因となっている可能性がうかがえる。このことは、同時期に行った松葉を生物指標とした重金属類の測定調査によっても裏付けられている。


 <図9:佐野 異性体分布の変化 03−08年度>


 <図10:福宗 異性体分布の変化 03−08年度>

 このように松葉によるダイオキシン類調査を継続的に行うことにより、【グリーンコープ生協おおいた】では、大気中のダイオキシン類濃度やその原因となる廃棄物の処理の現状等について、組合員への情報提供を行うとともに、毎年報告会を開催して結果についての理解を深め、行政への働きかけや生協としての取り組み、また生協組合員としてのライフスタイルの見直しにもその活動の成果を活かしてきた。

 大都市に比べて焼却炉の密度も低く、大気もきれいと思われていた大分市内だが、山間部の大規模焼却炉周辺のダイオキシン類濃度は全国各地と比較しても思いの外高く、ごみの焼却処理の課題についての問題意識を強くするきっかけとなっている。


 <図11:2008年度調査地域濃度ランキング:クロマツ換算>

 大分県にあって、可燃ごみの70%以上が生ごみや庭ごみといった有機物であることへの疑問も強くなっている。生ごみを各家庭で堆肥化したり、地域で堆肥化やバイオエネルギーとして有効活用する方法についても今後検討していくことが望まれる。東京などの大都市とは異なり、大分ならではの、より環境にもやさしい、経済的にも技術的にも持続可能な「廃棄物資源管理」の方策が検討される必要があるだろう。


 <図12:大分市ごみ量の推移>


 <図13:生ごみの割合>

 なお、生協ではこれまで一般廃棄物焼却炉について注目してきたが、大分県内、大分市内には事業者の自主測定による排ガス中ダイオキシン類濃度が極めて高い発生源が多数存在していることがわかっている。引き続き、産業廃棄物焼却施設や産業系発生源(工場など)にも目を向け、監視を継続するとともに、行政への働きかけを行っていくことが必要であると思われる。

 日本では依然として、排ガス中のダイオキシン類の規制値には規模や設置年によって違いがあり、最新の大型炉の規制値が0.1ng-TEQ/m3Nであるのに対して、未だに10ng-TEQ/m3Nや5ng-TEQ/m3Nなどという緩い規制値がまかり通っている。ここでも法律の見直しの必要性が改めて問われる。日本全体では大気中ダイオキシン類濃度の改善傾向が見られるとはいうものの、発生源の周辺では依然として高濃度のダイオキシン類が煙突から排出され、そのまま見過ごされている実態に目を向ける時ではないだろうか。