豊島区が実施した
松葉ダイオキシン調査結果



池田こみち

掲載日:2006年5月2日


 2006年4月22日、豊島区池袋の豊島清掃事務所会議室において、2004年度に豊島区が実施した区内の松葉によるダイオキシン調査の結果をどう見るか、という報告会が開催された。

 東京都内全域でプラスチック廃棄物の焼却処理が進もうとしている中、松葉調査を通じて、現状の豊島区内、ひいては東京都心部の大気中ダイオキシン類濃度の実態を知ることは極めて重要な意味をもつ。このまま、処分場の延命とわずかばかりの非効率なサーマルリサイクルの名の下に廃プラ焼却が始まれば、ようやく改善してきた大気中のダイオキシン類濃度が再び上昇に転ずることが危惧される。

 この調査は、区民からの要望に基づき、区民の環境学習の一環として2004年度に実施された。その結果は「大気中のダイオキシン類(平成16年秋季)および松葉中のダイオキシン類の調査結果がまとまりました」として区のホームページに掲載された。

 しかし公費を投じた調査であるにもかかわらず、十分なデータの解析や評価が行われておらず、区民への説明や環境行政に活かす姿勢も見られないとして、区民から批判も出ていた。

 そうした中、市民参加による松葉ダイオキシン調査実行委員会事務局である環境総合研究所(ERI)は、豊島区議のお一人から結果についての詳細な評価報告書の作成の依頼を受けた。ERIでは、これまでに蓄積された全国の測定データや学術的な知見をもとに、豊島区内の松葉調査の結果を改めて詳細に解析し評価報告書をとりまとめた。<評価報告書抜粋版PDFファイル 282KB>

 報告書作成から一年以上が経過したものの、このほど、ようやくその評価報告書の内容を区民主催の学習会で説明する機会を得たので、概要を以下に紹介する。

<調査対象エリア>

 豊島区は池袋駅を中心に東西に商業業務地と住宅街が広がるエリアである。区では、池袋駅を中心に区内を東西に区分し、それぞれの地区からクロマツの葉を7ヵ所程度から採取して分析した。池袋駅から徒歩5分程度に位置する豊島清掃工場の煙突は、隣接するサンシャインビルの換気塔の高さを考慮し、210mの高さとなっており、高層から排ガスが拡散されているが、豊島区東部地域が年間を通じて風下地域にあたる。

 豊島区西部地区:千早、千川、高松、長崎、池袋3丁目、目白
 豊島区東部地区:池袋本町、高田、南池袋、巣鴨、駒込

<分析対象>

 市民による松葉調査では、PCDD/PCDFのみの測定を継続してきたが、豊島区ではCo-PCBも含め、ダイオキシン類の濃度を測定した。

<実施機関>

 株式会社環境科学コーポレーション(豊島区南池袋)

<委託費>

 2検体で178,500円(税込)

<結果:松葉中のダイオキシン類濃度>

 豊島区西部地域:4.1pg-TEQ/g
 豊島区東部地域:3.9pg-TEQ/g
  豊島区平均 :4.0pg-TEQ/g

<評価>

  • 市民参加による松葉ダイオキシン類濃度は1999年度からすでに7年間が経過し、事務局には800検体を超えるデータが蓄積している。それらのデータから、松 葉に蓄積しているダイオキシン類濃度は年々低下していることが明らかになっ ている。九州や中国エリアでは松葉中のダイオキシン類濃度は1pg-TEQ/gを下回るレベルにまで達している。
  • 各種規制強化や施設改善、市民による継続的な発生源監視活動などが濃度の低下に結びついたものと考えられる。しかし、依然としてEUの諸都市に比べて大気中の濃度は6−7倍も高い状況となっている。
  • 今回豊島区が測定した結果は、2004年度から2005年度に調査を行った国内の他地域と比べても著しく高い濃度であった。
  • 上記の松葉中ダイオキシン類濃度から大気中のダイオキシン類濃度を推定すると、概ね0.4pg-TEQ/m3となる。
  • 大気中ダイオキシン類濃度の環境基準として定められた年間平均値で0.6pg-TEQ/m3と比較すれば、それ以下で問題ないということになるが、EUですでに導入されたTDI値2.0pg-TEQ/kg体重・日を前提とした場合に相当する濃度は0.3pg-TEQ/m3となり、大気中の濃度はより低く管理される必要がある。
  • 豊島区の中心にある豊島清掃工場の排ガス中濃度は、東京23区一部事務組合の発表に寄れば、16年度に2回測定され、それぞれ0.000036ng-TEQ/m3N、0.00013ng-TEQ/m3Nとなっている。
  • 清掃工場の排ガス濃度が年2回測定されたときと同じ低い濃度レベルに24時間365日維持されつづけているとすれば、松葉に吸収蓄積されているダイオキシン類の発生源は何なのか。改めて、排ガス中のダイオキシン類濃度の実態把握が課題となる。

<廃プラ焼却の課題>

  • 今回の松葉調査により、豊島区の大気中ダイオキシン類濃度は決して低くなく、改めてその問題に着目することが必要である。
  • その上、廃プラを焼却することになれば、焼却炉の運転管理、維持管理は一層難しいものとなり、今まで通りの排ガス処理が可能かどうかは極めて疑問である。
  • ダイオキシン類ばかりでなく、重金属類や多環芳香族炭化水素類、環境ホルモン類など多様な化学物質について一層の注意を払っていかなければならないのは自明である。
  • 焼却容量に余裕があるから、処分場の延命がはかれるから、エネルギーを回収するからと言って、廃プラを安易に焼却処理することは、事業者の排出者責任を問わず、すべて住民の税金によってまかなわれている自治体のゴミ処理に依存する体制を強化することであり、抜本的な廃棄物削減、資源化対策などいわゆる3R対策に結びつかない。
  • 廃プラ焼却に伴う環境リスクについての十分な検証が行われて居らず、周辺住民の健康への影響も危惧される。
  • 加えて、さらなる焼却炉や溶融炉等への設備投資が必要となることは必然であり、本来の循環型社会作りからはほど遠い。
  • 廃プラ焼却に踏み切る前に、改めてその必要性、妥当性、正当性について開かれた議論をやり直すことが求められているのではないだろうか。

池田こみち

<主催団体> 豊島・健康と環境を守る会
       共催団体:池袋本町南町会
            グループ想(子供たちに手渡す森、命、くらしの会)