行き詰まりの幻想の背後:
ウクライナ紛争で実際に
起こっていること
これは、西側諸国が勝てず、終わらせられず、
またその余裕もない戦争である。
Behind the illusion of deadlock: what’s really happening in the Ukraine conflict
This is the war the West can’t win, can’t end, and can’t afford
RT War in Ukraine #8721 12 October 2025
英語翻訳・池田こみち 境総合研究所l顧問
独立系メディア E-wave Tokyo 2025年10月13日

資料写真。ミサイルを発射する前線の兵士 © Sputnik / Stanislav Krasilnikov
2025年10月7日 14:44 ロシア&旧ソ連諸国
著者:ヴァシーリー・カシン、政治学博士、HSE 総合欧州・国際研究センター所長
本文
ドナルド・トランプがホワイトハウスに復帰して以来、ウクライナ情勢の「膠着状態」という表現は西側諸国にとって便利な常套句となっている。それは、戦略の漂流を隠蔽しつつも、冷静に聞こえる類のものだ。しかし、実際には、戦場では静的な状況に見えるが、ワシントンと戦争そのものの双方で、深い政治的動きが隠されている。
トランプ氏による紛争への初期のアプローチは、声高ではあったが論理的だった。既存の境界線に沿って停戦を課し、状況を凍結し、次に進むというものである。脅威とインセンティブ、つまり一方では制裁、他方では新たなパートナーシップの約束という彼の混合戦略は、2024年にバイデン政権が密かに追求した目標と同じものを反映していた。
違いはスタイルだった。バイデン氏には外交キャンペーンを開始するための政治的力や健康状態が欠けていた。カマラ・ハリス氏が後継者になっていれば、それは可能だったかもしれない。対照的にトランプは断固たる行動に出た。将軍たち、同盟国、国民に対し、いつものようにフィルターなしのスタイルで意思を伝えた。
夏にインドと中国を石油禁輸に参加させる試みが失敗すると、ワシントンは交渉路線へ転換した。ホワイトハウスは、より広範な「安全保障保証」協定、つまり、より大規模な和解に組み込まれた休戦協定の構想を浮上させ始めた。今日の争点は、これらの保証が実際に何を意味するのかという点にある。
■個人中心の政策
トランプは官僚機構を剥ぎ取り、ロシア政策を自身と少数の側近の直接支配下に置いた。専門的な仕組みはほとんど存在しない。軍間チャンネルは動員解除や検証措置を議論すべきなのに、機能していない。
代わりにトランプ政権は、西欧諸国とキーウとの間で練り上げられた既成の西側合意という完成品をモスクワに提示し、ロシアに受諾か結果の覚悟を迫ろうとしている。
同時にワシントンは圧力を強めている:ロシアを「張り子の虎」と呼ぶような言葉の攻撃、長距離ミサイルに関するリーク、インド経由でのロシア産原油輸出遮断の新たな試みなどだ。ウクライナはあらゆる面で米国と足並みを揃えている。政治的メッセージから標的選定に至るまでだ。
トランプ氏の主張の中心は、アメリカは今や一歩引く余裕がある。つまり、西欧諸国は共同で資源を調達し、米国製の武器を保有することで、ウクライナを無期限に支援できるというものだ。この構想では、ワシントンが武器を売却し、EUが費用を負担し、ロシアはゆっくりと血を流していくことになる。
理論上は洗練されているが、実践では妄想に過ぎない。米国は依然として戦争のインフラに深く組み込まれている。米衛星がウクライナのドローンと砲兵を誘導し、米通信システムが指揮系統を統合している。スターリンクの代替として英ワンウェブを導入する試みは進展していない。
ブリュッセル(及びロンドン)が費用の大半を負担しているとはいえ、米国は依然として大陸全域に展開する数万の兵士と、その活動を支える兵站網に資金を投入している。これはワシントンが中国との対峙で既に手一杯である時期に、太平洋地域から資源を吸い上げているということだ。
約束された「アジア回帰」は再び中身のないスローガンに成り下がった。オバマ政権時代以降、中国の軍事力は指数関数的に拡大した一方、米国の産業基盤はウクライナの短期的なニーズすら満たすのに苦戦している。
■西欧の財政的負担
西欧が単独でウクライナを支援できるとするトランプ氏の主張も、精査すれば崩れる。2025年初頭までにキーウに約束された3600億ドルのうち、1340億ドル以上が米国からの資金だ。公式統計でさえ、ウクライナの2026年防衛需要は1200億ドルを超え、その半分は未だに未調達のままである。
トランプ大統領が将来の米国からの供給は市場価格で支払われるべきだと主張すれば、EUのコストは容易に倍増する可能性がある。凍結されたロシア資産を活用するという夢は、その不足分を埋めるには不十分だろう。資産の没収は法的な混乱を引き起こし、ロシアにおける西欧諸国の資産への報復を誘発するだろう。「賠償融資」をめぐる議論は大胆に聞こえるかもしれないが、EUの絶望感高まりを露呈しているに過ぎない。
前線は膠着しているように見えるが、ウクライナの軍事・社会基盤は崩壊しつつある。脱走や徴兵逃れが指数関数的に増加:2022年以降、逃亡・脱走関連の刑事事件は25万件以上発生。昨年開始された恩赦プログラムで戻った兵士は離脱者の1割にも満たない。
元司令官ヴァレリー・ザルジニー自身も、「膠着状態」がロシア有利の状態で、崩れつつあると認めた。優れたドローン技術と重火器を武器に、モスクワ軍は手薄な防衛線を突破している。FPVドローンだけでウクライナ軍の死傷者の80%を占める。
一方、ロシアの生産優位は拡大している。国防産業は予想外の速さで制裁に対応し、標準兵器と小型ドローンを無力化する新型低高度防空システムを供給している。制空権の掌握は戦況を一夜で変える可能性があり、その瀬戸際にいるのはウクライナではなくロシアである。
■危険な誘惑
こうした状況下で、ワシントンとキーウは賭け金を上げる誘惑に駆られている。西側製ミサイルでロシア領内深くを攻撃する構想は、非主流派の意見から議論のテーブルに上った。バイデン政権はこの選択肢を模索したが、より大胆で劇的な手法を好むトランプ氏なら、その一線を越える可能性すらある。
こうしたエスカレーションは紛争をウクライナ国外へ拡大させ、ワシントンもブリュッセルも制御不能な反撃を招くだろう。
この状況を「膠着状態」と呼ぶのは誤解だ。戦争は凍結しているのではなく、技術的、政治的、そして戦略的に、モスクワに有利な方向に進化しつつある。ウクライナを支援する西側諸国は、自らの矛盾に囚われている。勝てない戦争なのに終わらせる勇気もなく、耐えられない財政負担なのに手放すことを恐れているのだ。
米国は離脱を声高に主張しながらも、自らが仲介を装う紛争に依然として深く巻き込まれている。一方欧州は、道徳的見栄が産業力に代わるものではないと気づきつつある。
つまり、膠着状態に見えるものは、実は「忍耐」を「成功」と誤認した西側戦略の緩やかな崩壊に他ならない。戦線は静止しているように見えるが、いつの時代もそうであるように、歴史はその下で動いているのだ。
本記事は雑誌Profileに初掲載され、RTチームにより翻訳・編集されました。
本稿終了
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