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意見;NYTのインタビュー
バンクマン-フリード氏の栄枯盛衰

Let’s Talk About the New York Times’
‘Puff Piece’ on Sam Bankman-Fried

By Daniel Kuhn 

翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂 Coin Desk Japan

独立系メディア E-wave Tokyo 2022年11月24

サム・バンクマン-フリード氏(Danny Nelson/CoinDesk)

本文

 サム・バンクマン-フリード氏は、暗号資産取引所FTXとヘッジファンドのアラメダ・リサーチを中心とした自らの暗号資産帝国が崩壊して以来、謎めいたメッセージを送っている。「What(何が)」でスレッドを始め、「HAPPENED(起こったのか)」を1文字づつ綴ったツイートを続けた。

次々と明らかになる事実

本当に、何が起こったのだろうか?

 暗号資産界の寵児バンクマン-フリード氏が世界中で刑事捜査の対象になって以来、多くの情報が明らかとなってきている。その中には、FTXの顧客資産がアラメダの損失を補填するために使われていたことを示すオンチェーンデータも含まれている。

 バンクマン-フリード氏の、政治指導者たちへの寄付や彼らとのつながりをめぐって陰謀論も浮上した。恩赦や自分に有利な規制上の扱いのために、前払いしていたのではないかと疑われているのだ。

 さらに、バンクマン-フリード氏のデスクに処方薬の興奮誘発剤や向知性薬と見られるものが置かれている写真まで出回っている。

 バンクマン-フリード氏とアラメダの元CEOキャロライン・エリソン氏との恋人関係に関しても、探りが入れられている。2人の個人的なメッセージや、バンクマン-フリード氏とエリソン氏が会社の支払い能力について公に嘘をつくように従業員に求め、資産の濫用を認めたともされる社内会議の議事録も流出している。

 つまり、FTXとアラメダで起こっていたことについて、疑惑には事欠かないのである。多くの人にとって、バンクマン-フリード氏の失墜は、彼が会社のバランスシートに空けた100億ドルとされる穴よりも大きい。

 わずか3年で、彼は暗号資産をメインストリームに普及させることを望み、自分の資産を喜んで寄付する庶民の味方のビリオネアという評判を築き上げていたのだ。

 ビットメックス(BitMEX)の共同創業者で、顧客の資産を悪用したとされるアーサー・ヘイエス(Arthur Hayes)氏にバンクマン-フリード氏が似ていると非難する、現在は削除されたツイートに対して、「サムが勝つと、自分たちも勝ったような気になる」と、ある暗号資産トレーダーが返答していたのを思い出す。

 「トレーダーたちが開発した、トレーダーのための」FTXにおいて、バンクマン-フリード氏は結局、顧客資産を濫用していたと疑われているのだ。彼はその気前の良さに加えて、休むことのない労働倫理と抜群の知性によって、許されるべきなのだろうか?

 公然の秘密が、うやむやにされていたようだ。振り返ってみれば、業界で最も影響力の大きいポッドキャスト『Up Only』をはじめとして、バンクマン-フリード氏が融資していたメディアプロジェクトの多さ自体も疑念を誘うものだ。彼は評判だけでなく、オーラを築き上げていたのだ。

 短パンと冴えない洋服に身を包んだバンクマン-フリード氏が、弱気・強気相場のストレスで太り、だらしなくなっていくのを私たちは目撃した。靴ひももしっかり結ばずにアメリカの議会に姿を現すのも、私たちは目の当たりにした。

 彼らは「私たちと同じ人間」なのだと、多くの人が思っていた。FTX破綻の痛みは、金銭的なものだけではない、個人的な裏切りの痛みなのだ。

失墜以来初のインタビュー

 だからこそ14日に、ニューヨーク・タイムズが失墜以来初となるバンクマン-フリード氏のインタビューを掲載した時に、読者やコメンテーターたちから怒りの反応が寄せられたのも、驚きではなかった。同記事は多くの人に、「提灯記事」と呼ばれた。

 「FTXの詐欺を持ち上げながら、同時に業界大手企業について中傷的なゴシップ記事を書いて、読者を安全で信頼でき、実証されたプラットフォームから遠ざけていたのだ」と、クラーケン(Kraken)の元CEOジェシー・パウエル(Jesse Powell)氏は指摘。おそらく、メディアの矢面に何度か立たされたことがあるクラーケンとコインベースのことを指しているのだろう。

 「ニューヨーク・タイムズは、バンクマン-フリード氏の共犯になっている。不愉快だ。バンクマン-フリード氏は盗みと詐欺によって、数えきれないほどの人たちの人生を台無しにした。それなのにニューヨーク・タイムズは、権威と影響力のある新聞で彼をよく見せることによって、司法の裁きをおくらせたり、回避する手助けをしているのだ」と、ジーキャッシュ(Zcash)の共同クリエーター、ズーコ・ウィルコックス(Zooko Wilcox)氏は批判した。

 バンクマン-フリード氏の評判を良くしてあげる行為に加担しているように聞こえるリスクを承知で、シンプルにこう言っておきたい。ニューヨーク・タイムズの記事は、普通に良くできている。約1500文字の中に、本にしても良いほどの内容がうまくまとめられているのだ。その多くがまだ憶測の域を出ないストーリーにおいて、締め切りを抱えたライターができることは限られている。

 インタビューは、せっかくのチャンスを逃した仕上がりになってしまっていただろうか?おそらく、そうだろう。

 バンクマン-フリード氏は1時間以上も電話取材に応じたそうだが、FTXとアラメダの利害の対立についての直接の引用はなく、バンクマン-フリード氏が2社の間で違法に資産を混ぜ合わせたことを認めることも、否定することも、他に罪を認めることもない。CEOを辞任したバンクマン-フリード氏が、現状に対して責任を認めている感じがほとんど伝わってこないのだ。

 しかし、バンクマン-フリード氏に偽証することを期待できるだろうか?冒頭で紹介した謎めいたツイートには触れながらも、削除されてしまった一連のツイートに記事が触れていないのは残念だ。バハマでFTXからの資産引き出しの試みが行われていることについて、詳細が伝えられていないのも残念。さらに、バンクマン-フリード氏が自らプレイしていたビデオゲームに投資していたことを指摘していないのも、残念だ。

 しかし、バンクマン-フリード氏に質問を投げかけたのに、答えが返ってこなかったことは明らかである。どちらにしても、FTXに資産を預け続けてもらうためにユーザーに嘘をついていたことを考えれば、バンクマン-フリード氏が言うことすべてを疑ってかかった方が良いだろう。

 真実はいずれ明らかになるはずだ。かつての内部関係者が続々と口を開いているし、捜査も徹底的に行われる。バンクマン-フリード氏について、最悪の場合を想定することはできるが、彼は事実に基づいた公平な裁判に値する。

メディアの役割

 メディア、とりわけクリプトネイティブのメディアは、バンクマン-フリード氏の台頭に加担した。しかし、失墜のドミノの最初の1枚を倒したのは、CoinDeskのイアン・アリソン記者であり、複数のメディアが、バンクマン-フリード氏の砂上の楼閣にまつわるニュースを流し続けた。しかし、現状では疑わしいことと、事実として分かっていることが混在している。

 バンクマン-フリード氏が「効果的な利他主義」の哲学に本当に傾倒していたのか、欲に駆られていたのか、はたまた抗うつ薬の副作用(ギャンブルの衝動を含む)に苦しんでいたのかは分からない。

 もしかしたら、効果的な利他主義そのものが欠陥を抱えたものなのかもしれない。しっかり定義されていない「善」という目標のために、悪い行いの言い訳となる、都合の良い建前。分散型資産のための「中央集権型」取引所というアイディアと同じくらい、不備のある考えなのかもしれない。

 バンクマン-フリード氏は、真の意味でクリプトを代弁していたことは一度もない。彼の規制関連の思惑が知られるようになって、人々は初めてこのことに気づいた。金融上のプライバシーを無くし、分散型金融(DeFi)を台無しにし、FTXを堀で取り囲むような規制を、彼は求めていたのだから。

そうなると、ニューヨーク・タイムズが、やっとゆっくり眠る時間を手にした元ビリオネアについてつまらない記事を書いたからといって、何だというのだろう?記事が書かれたこと自体が、雄弁に語っているのかもしれない。